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映画「メッセージ」(追記あり)(ブラックウッド、黒家カイミ)

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【メッセージ】
2016年 アメリカ /監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ  出演: エイミー・アダムス、ジェレミー・レナー 


下記の監督、主演映画の原作者が誰だか分かりますか?

 監督

スティーブン・スピルバーグ
リドリー・スコット
ポール・ヴァーホーベン

 主演

アーノルド・シュワルツェネッガー
トム・クルーズ
キアヌー・リーブス

 
 錚々たるメンツなんてレベルでは表現が追い付かないほどの超豪華スタッフ・キャスト。
 この他にも興味を示していたり、企画しようとしていたり、そうでなくても大ファンを公言する映画関係者が引きもきらない作家とは・・・?








 正解は、フィリップ・K・ディック !!

フィリップ・K・ディック 我が生涯の弁明
フィリップ・K・ディック 我が生涯の弁明

 これほど映画化に恵まれた原作者はそうはいないでしょう。いたとしてもスタッフの豪華さは本当の意味で「世界一」なのがディックと言って間違いないと思います。

 映画化という意味だと他にはディーン・R・クーンツくらいですかね。

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)
ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

 ただクーンツの映画って良くも悪くもB級SFアクションみたいなのばっかりなんですよねぇ…。

 あ、スティーブン・キングとかもいたか。

小説作法
小説作法

 でも、「一般的な知名度に比して映画化度合いが高い」って意味だとディックが上なんじゃないかと(何を競っているのか)。

 ただその…ディックの映画って、一般的な映画とか「SF映画」って意味でいうと「致命的な問題」を抱えているんです。

 PKD(ファンはこう呼ぶこともある)については、それこそWikipedia

フィリップ・K・ディック Wikipedia

とかを参照してください。
 まあ、ここには形而上がどうこうと難しいことが書いてありますが、「現実と非現実が曖昧になる」悪夢みたいなどんでん返しのオチを決めるキレッキレの短編の名手…というところ。

 初心者向けとも大マニア向けともいえない便利な立ち位置の作家だったりもします。
 「SF好きです」なんて言ったら寄ってきそうなマニアに「アシモフ好きです」とか「星新一好きです」とかいうと小ばかにされるかもしれませんが「フィリップ・K・ディック好きです」と言えば「…ほう」とかは言ってもらえる様な存在。

 で、「致命的な問題」は何かってことなんですけど、ディックの作品って読んでもらうと分かるんですけど、あまりの斜め上展開に絶句して放心状態になったまま終わっちゃう作品とか、主人公のどうしようもなさに呆れたりとか、あまりの運命の不条理さに絶望したりとか…そういう作品ばっかりなんですよ。

 だから、間違っても主人公は「トム・クルーズ」みたいな人物ではないんです。

マイノリティ・リポート 特別編 [DVD]
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 あるいはアーノルド・シュワルツェネガーみたいな明朗快活な大男が波乱万丈の大冒険を繰り広げる痛快SFアクションみたいな話ではないのですよ。

トータル・リコール [Blu-ray]
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「トータル・リコール」なんて原作は映画の前半部分までで、オチは「哀れな妄想を抱いてるしょうがない奴」みたいな感じなのに、映画は「その妄想が実は本当でそこから火星に行って大冒険!」みたいなことになってます。

ちなみに「ロボコップ」でエクストリームなエロ・グロ・バイオレンスでならしたポール・ヴァーホーベン監督なのであんなことになってますが、元は「ヴィデオドローム」

ビデオドローム [Blu-ray]
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のデヴィッド・クローネンバーグ監督で、何が現実で何が夢なのか本当に分からなくなる悪夢みたいな映画の予定だったそうです。

 ディックファンとしてはそういう映画も見たかった気はするんですが、メジャー大作でその路線はちょっとありえなかったでしょうね。

 そう、ディックって大人気なんだけど、その資質って「メジャー大作」志向じゃないんですよ。「気の効いた短編」みたいな作風なんですね。

 でも、大ファンの映画関係者が超一流どころだから、出来上がった作品はみんな「メジャー大作」になっちゃう。これがジレンマでした。贅沢なジレンマだけど。

 「ブレードランナー」がある意味非常にディック的ではあるけど、モチーフだけ拝借した全く別の作品でした。映画としては最高ですが。

ブレードランナー 最終版 [DVD]
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 全部観た訳じゃないんですが、ディック原作映画で最も原作の雰囲気を再現してたのって「スクリーマーズ」でした。個人的に。

スクリーマーズ [DVD]
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でも、マイナーB級映画なんだよなぁ…。


 話があっちゃこっちゃ行ってすいません。でもって今度の映画「メッセージ」なんですけど、なんと原作はテッド・チャンの「あなたの人生の物語」なんですよね。

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

 あちこちのラジオとかで解説がなされてるんですけど、「中国系アメリカ人」くらいに留まってるんですが、テッド・チャンといえばグレッグ・イーガンと並んで「現代最高のSF作家」とされる2人の内の1人なんですよ!

万物理論 (創元SF文庫)

 テッド・チャンのすごさの表現って難しいんですが、恐らく多読家の女性とかが読み飛ばしたら「SF」だとは気付かないと思います。それくらい素朴で素敵な話を書く作家なんですよ。

 グレッグ・イーガンの方は持ちネタの量子力学を駆使した超絶技巧を見せつけてくれる感じで、誰が見ても「すごい!」とのけぞっちゃう感じ。すごさが分かりやすいんです。難しすぎてげんこつせんべいみたいな作品ですが。

 実は最初にチャンを読んだときは「ん?これが現代最高のSF作家なの?」と思っちゃうんですよ。
 多くは短いし、すごさを誇示しないから。

 でも、だんだんじわじわと隠されたすごさが染みわたってくる感じ。

 そして、「嗚呼、これは現代最高だわ」と思わざるを得ないという。

 グレッグ・イーガンの作品が「超絶技巧」「物量作戦」だとしたらチャンは「奇跡」みたいなというか…うまく言えないな。


 で、なんでディックの話を延々したかというと、やっぱりチャンの作品って「短編小説」で最も光り輝くのであって、「2時間の大作映画」はちょっと「盛る器が違うなあ」…と感じざるを得なかったのがこの映画の感想になりますね。

 あんまり厳密なSF考証がどうこうって作家ではないので、細かいことはどうでもいいんだけど、全地球を巻き込んだ大事件が、個人の話に置き換わっちゃうってのはまさに「舞台を贅沢に使い捨てる」短編小説の面目躍如なのであって、大作映画でそれをやるとスケールが矮小化しちゃう…と、思いますね。

 昨日、見終わった後に嫁にさんざんやった「あそこはこの映画に似てる」とか「あそこはこの小説にこういう話がある」とかたっくさんありますがここでつらつら並べ立ててもしょうがないでしょう。

 純粋に「映画としてのSF作品」という意味でいえば「インターステラー」

インターステラー [Blu-ray]
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の方が満足度は高いと思います。

 時制の無い言語だから宇宙人が時空を超越してる存在…とか言われても、「単に国語がワヤな種族」ってだけかもしれない(爆)。

 実際「漢語」とか「漢文」は「時制」にそれほど頓着してないっていうし。

 日本語には「過去形・現在形・未来形」くらいしかないけど、英語には「過去完了・未来完了進行形」とかなんとか全部で「12種類」の時制があることは中学で英語をやらされた皆さんはよくご存じでしょう。

 だからといってその言語を使ってる民族が未来に行けたりするわけじゃないし。

 時空を超えた認識の話とかって、「四次元」の話が一応知識で分かってないと分かりにくいと思うんですよ。

 「インターステラー」はなんと「四次元をビジュアルで見せちゃう」というアクロバットを実現してみせたんですよ!
(ちなみにセリフでは「四次元」とは言ってなくて「五次元からメッセージを送ってるよ」と言われてるだけなんだけど、「五次元から」ってことはあそこは「五次元」じゃないことからの推測)

 あの映画の途中で時制がごっちゃになるのはある意味でいえば「四次元」を感じさせてくれる描写なんだけど、小説だと「四次元がどんなものなのか」が自然に体験的に理解できる形になってる(だからこそ理屈で小説を読まない女性にも大人気!)のに比べて、映像にしちゃうとフラッシュ・フォワードとフラッシュ・バックが混乱してるだけで逆に分かりにくくないかなあ…とか。

 大体2時間もつき合わされた結末があんなに悲しいと「エンターテインメント」としてはどうなのかなって。
 やっぱり短編向けなんだと思うんです。

 テッド・チャンは疑いなく現代最高のSF作家で、それはディックもサイコーのSF作家でみんな大好きなんだけど「映画向けじゃない」んだよなあ…。

 だから「惜しい」というのが最後の評価。


 え?それだけ言うんだったら「映像化におススメのSF小説を挙げろ」?

 それは…沢山あるけど、「さよならダイノサウルス」

さよならダイノサウルス (ハヤカワ文庫SF)
さよならダイノサウルス (ハヤカワ文庫SF)

と「第六大陸」

第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)
第六大陸〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

でどうでしょう?

 とりあえずこんな感じです。

*追記*

 映画として何が物足らなかったかを思い出したので。ここから若干ネタバレありなので映画を観た後でどうぞ。

 実は映画として一番食い足らなかったのが「中国が攻撃を開始する」ことが「サスペンスとして機能していない」ってこと。

 主人公の女性博士が「時制を越えてイメージを観られる」要は「未来を幻視出来る」能力を持つに至ってるってんなら「可能性の未来」が見えてもいいでしょ?

 シュレディンガーの猫が死んだ世界ですよ。

 大体、あのばかうけ

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みたいなのが映画では全く脅威に見えないので。

 そこは映画なんだから、「中国が下手に攻撃したために、人類には及びもつかない超テクノロジーで大反撃を受けて人類はほとんど死滅する」未来を幻視させるんですよ。

 そうすれば「攻撃してはいけない!」というサスペンスになります。

 まあ、これをやっちゃうと映画「デッドゾーン」になるんだけど。

DEAD ZONE
DEAD ZONE
*キングの原作よりずっと面白くアレンジされていて無茶苦茶面白い映画なのでおススメ。一か所かなりグロい場面があるけどそこは我慢だ!

 せっかく「未来が見える」んだから「可能性の未来」ってことで、「人類が破滅した」未来から「人類が助かった」未来に幻視が変化すれば映画的なハッピーエンドになったでしょ。

 え?原作はそんなんじゃない?何のために映画化すんのよ。それくらいはやりましょうよ。

 そうすれば「ああ、こうやって人類の危機は回避されたんだ…」とハラハラ出来るじゃない。

 例えば、アホなどっかの国が爆弾をばかうけに落としちゃって、そしたらビーム一閃で反撃されて周囲数百キロが蒸発するんだけどばかうけはピンピンしてるとか。

 それだけで「おとぎ話」に「超スペクタクルSF大作」風味が生まれて最高じゃん。日本のアニメ映画でもやってるそれくらい。

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 それこそスピルバーグだったら「実は未来が変化したことで特効薬が開発されて〇(一応伏字)は助かりました」とかやって、くるりとカメラが振り向いたら×(伏字)がいて抱き合ってハッピーエンド…とかね。

 流石に最後のはやりすぎなんだけど、可能性の重ね合わせ(スーパーポジション)から何らかの行動を時制を越えて行ったことで一つに収斂するなんてのは実はちゃんとテッド・チャンもやってる「量子力学」的にもひねりになってて面白いと思うけどなあ。

 あと「武器」たる「言葉」がテクノロジーとして齎(もたら)された…らしいことまではわかるけど、それで具体的に何がどうなったって話まで描かれてないから、結論として「はぁ?」という印象になっちゃう。「で?だからどうしたの?」

 大体、あの運命がそのまま訪れるってんなら未来のテクノロジーとやらも現代医学以下ってことでしょうが。
 まあ、テッド・チャンってサイエンス・フューチャー(科学的に未来を予測する)タイプの作家じゃないんでそこを追求しないのはさもありなんで分かるんだけど、せっかく映画化するんだからそういうアレンジにしちゃえばよかったと思います。
 きっと原作の原理主義者は「原作はこんな能天気なハッピーエンドじゃない!もっと深淵で哲学的でしっとり感動的なんだ!」と主張するでしょうけど。

 でも、今私が書いたみたいな話にしとけば、結構冗談でなく時代を超えたスタンダードなSF映画になった気がします。

 まあ、この映画がこうなったのも、別の可能性が収斂した結果ってことですね。

『メッセージ』(オリジナル・サウンドトラック)
『メッセージ』(オリジナル・サウンドトラック)

↓黒家カイミ追記。映画視聴後、SF好きな主人が原作者について熱く語ってくれました。

テッド・チャンさんは有名な方なんですね。短編であまり作品数が多くないそうで、私は『SFだけど絵本原作?』というような印象を持ちました。

おとぎ話のようだけど、言語学者の話や宇宙のことなどSFの知識はしっかり下地にあって描かれてるんです。そういった「SFのチラ見せ具合」が主人のような原作者のファンはたまらないそうですよ。

映画のラストが悲しすぎて、涙で言葉が出なかったです。これはこれで原作に沿っていて良いのでしょうけど、私も主人と同意見でもう少し盛り上がるシーンのある映画にして欲しかったかな〜。

より希望のある方向へシフトできる余地があったり、「人類が破滅した」未来から「人類が助かった」未来に幻視が変化した方が、誰にも分かりやすく納得のいく映画になったのでは・・・と思います。

もしもディズニー映画だったら、「ノートルダムの鐘」みたいに原作と違うハッピーエンドになってたかも。



↓またまた10分スケッチです。うろ覚えなのでヘプタポッドの足が開いた部分は曖昧です・・・。
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