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映画「アンダーグラウンド」「黒猫・白猫」を観た(ブラックウッド)

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 恥ずかしながらこの映画「アンダーグラウンド」のことは全く知りませんでした。
 公開が1995年ということで、この時期、日本では泣く子も黙る「新世紀エヴァンゲリオン」放送開始年で、しかもオウム真理教の地下鉄サリン事件と阪神大震災の年でもありますね。

 自称・非オタの妻が何故かやたらに力を入れて勧めてきた映画でした。

 どうしてもレンタルショップに無いので仕方なく同監督の「黒猫・白猫」を先に視聴。

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 一応映画について実地で学んでいたこともあるので分かるんですが、こうも何かといろんなものをぶっ壊す映画ってのは本当に撮るのが大変です。大穴が開いた家なんて撮り直し効かないし、何かといえばいろんなものをひっくり返すはぶっ壊すはと恐ろしくパワフルな映画でした。

 常に音楽が鳴りっぱなしなのも印象的。とにかく「いい顔」の役者さんばかりなのが印象的。あの歯が二重に並んでてボロボロと金色の歯とか本物なんでしょうか?

 誰が主人公なのかの明確な明言とかも無いまま汗だくのおっさんたちが勢いでガンガン回していく展開はそれこそアニメばっかり観てる様な視聴者は頭の切り替えが必要。


 そんなこんなで、どこのレンタル屋にもないことに業を煮やした妻は遂にメイキング付きのセルソフトを購入!
 噂の5時間完全版ではないのですが、なんと今時のDVDにしては信じられないことに「日本語吹き替え」音声すら入っていない仕様でした。

 でもって視聴。…すごかった。

 とにかく全編鳴り続けるBGMに圧倒されます。

アンダーグラウンド サウンドトラック
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 「政治的」と批判されたとされますが、なるほど確かに「政治的」であることは間違いありません。

 チトーという名前が連呼されるし、ニュース映像でブレジネフ書記長やらアラファト議長の顔も。そこに主人公たちがちゃっかり収まってる「フォレスト・ガンプ」

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風の演出もあるんですが、こちらは余りにもチープなんですがそこはご愛嬌。

 ただ、「政治的」であることは「だから悪い」ことには直結はしません。

 しませんが、共産圏の価値観で主人公たちが立ち振舞っているのはよりによってNATOの中心メンバーであるフランスのカンヌ映画祭ではかなり物議は醸したでしょうね。それでも受賞したのは映画そのものの持つパワー故かと。

 私はこの監督の資質って「黒猫・白猫」で見せたような畳み掛ける様なギャグの連打でストーリーを紡ぎつつ、うっすら感じさせるレベルで風刺を込める感じなのかと思ってたら、本人は「シリアスな映画を撮りたい」とずっと思ってたそうなんですね。

 「アンダーグラウンド」にも笑える場面が結構あるんですが、「シリアスやろう」としてあれくらい笑わせてくれるってのもそれはそれで資質ですね。

 ネタバレありであれこれ語るのは不遜なのでこれ以上は語りませんけど、これは「当事者にしか描けない」映画だと思います。それを政治的だと言わば言えですわ。

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で、アメリカ人監督が「アメリカ軍がサーフィンしたいという理由で現地人を虐殺し、『我々はあなた方を助けに来たのです』とぬけぬけと言う」場面を撮ったならば、「切実に訴える」というよりは「突き放して揶揄してる」感じが出ます。

 世界中の観客が初めて観た「芸術的なまでの新兵訓練の罵倒による洗脳」を見せつけてくれた「フルメタル・ジャケット」

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のお馴染みハートマン軍曹のシーンですが、あれも直接「ひどいでしょ?軍隊ってのはこんなに非人間的なところなんですよ!」…という感じではなくて、あくまで突き放して相対化して笑いものにしている感じ。
 だからこそパロディもやりやすいわけです。



 これらは軍隊や戦争をモチーフにはしていますが、「戦争は良くない」と訴えている訳ではありません。

 ところがこれが体験者自らが連合国の爆撃を受けて泣いている民衆を描いてしまうと、そこにはどうしたってある種の「メッセージ性」が生まれてしまいます。
 「私たちはこんなにヒドい目に遭ったんですよ。ヒドいでしょ?」という具合に。

 もしかしたら「政治的」云々と言っている人はその辺で「罪悪感」を感じていたりしたのかもしれませんね。
 だって所謂(いわゆる)NATO加盟国の西ヨーロッパってそのまんま連合国です。つまりこの映画の中では「加害者」陣営です。

 私もその点「ちょっと純粋に観られない」ところはありました。

 この後、この監督は「政治的」批判を受けて映画に政治色をにじませるのを一切やめて「黒猫・白猫」の様な政治色の一切ない映画を撮るようになったとのこと。

 ただ、私に言わせれば仮に政治色を当事者として切実に描くということなら、この「アンダーグラウンド」はその決定版でしょう。これを撮っちゃえば以降の映画で政治的に描かなくてはいけないものはもう描ききれているんじゃないかと思います。
 だから批判がどうこうじゃなくて「描ききった」からだと信じたいです。

 かの淀川長治さんすら「観たあとヘトヘトに疲れる」とおっしゃっていたそうです。
 観るときはしっかり仮眠を取って、コーヒーなんぞ用意して観るのをオススメします。


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